一般社団法人の役員変更手続きを専門家がわかりやすく解説
一般社団法人の役員とは、理事及び監事を言います。
一般社団法人では、理事は1名以上必ず置かなければなりません。一方の監事を置くかどうかは法人の任意です。よって、監事は置かずに役員は理事のみという法人は、多くあります。
役員は一般社団法人の登記簿謄本に記載(登記)されているため、何らかの変更事項が生じた場合は、その都度、法務局へ役員変更の登記を行わなければなりません。
例えば、役員の任期が満了した時、辞任した時、追加した時、死亡した時などが想定されます。
特に忘れてはいけないのが、役員任期です。
役員には任期がありますので、定められた任期が満了すると、その都度、法務局へ変更登記を行う必要があります。
役員の任期が満了した場合以外の事項については、発生の都度、法務局へ登記変更を行いますが、逆に言えば変更事項が発生しなければ何も行う必要はありません。
法務局への登記手続きは、変更が生じた日から原則2週間以内に申請しなければならないと定められていますので、期限内に申請できるようにしましょう。
2週間を過ぎても登記ができなくなるわけではありませんが、登記が遅れると「登記懈怠」となり、過料を請求される可能性がありますので、注意してください。
役員の任期が満了した場合
役員の任期は、理事は2年、監事は4年です。
任期は短縮することはできますが、伸長することはできません。
つまり、理事は2年に1回、監事は4年に1回は必ず任期満了による登記手続きを行う必要があるということです。
※役員任期は、正確には理事は「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時まで」です。監事は同様に4年以内です。
役員はその任期が満了すると、退任することになります。自動的に継続できるわけではありませんので、注意してください。
役員が任期満了により退任して、新しい役員が就任する場合は、現在の役員「退任」と新しい役員の「就任」手続きを同時に行うことになります。
今までと同じ役員が続投する場合であっても、定時社員総会において改めて役員を選任します。この同じ役員が選ばれることを登記手続き上、「重任」といい、登記簿謄本には、「重任」と登記されます。
尚、理事の任期満了により代表理事も退任となりますので、社員総会で理事を選任後、理事会で新しい代表理事を選定する手続きも必要です(理事会非設置法人は定款の定めに従い、代表理事を選定します)。
重任手続きの流れ《理事会設置法人の場合》
- 定時社員総会の開催:役員選任決議
- 理事会の開催:代表理事選定決議
- 法務局へ役員変更登記申請
必要書類《理事会設置法人の場合》
- 役員変更登記申請書
- 社員総会議事録
- 理事会議事録
- 理事、監事の就任承諾書
- 代表理事の就任承諾書
- 登記すべき事項
*参考ページ:理事の任期満了による重任・再任登記手続き
役員が就任した場合
新しく役員を加入させるには、社員総会で新しい役員を選任します。
新しい役員が就任を承諾したら、法務局へ役員変更の登記手続きを行います。
新たに就任する役員は、法務局への添付書類として「本人確認証明書」が必要ですので、事前に準備しておきましょう。
<本人確認証明書の例>
- 印鑑証明書
- 住民票記載事項証明書(住民票の写し)
- 戸籍の附票
- マイナンバーカードのコピー
- 運転免許証のコピー
理事会を設置していない法人では、新たに就任する理事は必ず印鑑証明書が必要です。監事や理事会設置法人の理事は、印鑑証明書以外の本人確認証明書でも構いません。
就任手続きの流れ《理事会設置法人の場合》
- 臨時社員総会の開催:役員選任決議
- 法務局へ役員変更登記申請
必要書類《理事会設置法人の場合》
- 役員変更登記申請書
- 社員総会議事録
- 理事、監事の就任承諾書
- 理事、監事の本人確認証明書
- 登記すべき事項
*参考ページ:理事の追加による変更登記手続き
役員が辞任した場合
任期の途中で役員が辞任した場合は、辞任をした日から2週間以内に法務局へ役員変更の登記手続きを行います。
任期の途中で辞めることになりますので、辞任の意思を明確にするために、代表理事へ辞任届を提出する形になります。
注意しなければならないのが、辞任によって法令又は定款で定められた役員の最低人数を欠く場合、辞任した役員は、新たに役員が選任されるまでの間、権利義務を有することになります。
- 理事の辞任によって理事が1人もいなくなってしまう場合
- 理事会設置法人の理事が3人以下になる場合
- 監事1人の法人でその監事が辞任する場合
- 定款で定められた役員の員数を下回る場合
後任者がいなければ、辞任しても役員の地位が継続しているのと変わらず、引き続き役員としての責任を負う。ということになります。
このような場合は、法令又は定款で定めた役員の員数を満たすため、後任の役員が選任されるまで登記をすることができません。つまり、辞任と同時に新しい役員の就任の手続きを行う必要があります。
辞任手続きの流れ《理事会設置法人の場合》
- 代表理事が辞任する役員の辞任届を受領
- 法務局へ役員変更登記申請
必要書類《理事会設置法人の場合》
- 役員変更登記申請書
- 理事、監事の辞任届
- 登記すべき事項
*参考ページ:理事の辞任、退任手続き
役員が死亡した場合
役員が死亡した場合は、死亡をした日から2週間以内に法務局へ役員変更の登記手続きを行います。
役員が死亡したときは、一般社団法人との委任関係が自動的に終了しますので、死亡した日に退任をしたことになります。
法務局への登記手続きは、死亡したことを証明するための書面を添付します。「死亡を証明する書面」は、死亡した役員の戸籍謄本や抄本、医師が作成した死亡診断書、家族が作成した死亡届が該当します。
役員の辞任と同じように死亡によって法令又は定款で定められた役員の最低人数を欠く場合は、死亡と同時に新しい役員の就任の手続きを行う必要があります。
死亡手続きの流れ《理事会設置法人の場合》
- 代表理事が死亡した役員の死亡届を受領
- 法務局へ役員変更登記申請
必要書類《理事会設置法人の場合》
- 役員変更登記申請書
- 死亡を証明する書面
- 登記すべき事項
*参考ページ:理事が死亡した場合の手続き
役員の氏名が変わった(改姓した)場合
役員が婚姻などの理由により氏名が変更になった場合は、「役員の氏の変更」の登記手続きを行います。
役員の氏名の変更は、就任や退任とは異なり、変更せずにそのままにしてしまうことが多くあります。氏名が変わっても、変更があった時から2週間以内に法務局へ登記手続きを行わなければなりませんので、注意してください。
代表理事は役員から氏名が変わったと連絡があれば、住民票などを確認して法務局へ登記を行います。
法務局へは住民票など氏名が変わったことを証明する書類を提出する必要はありませんが、法人内部でも氏名変更の手続きがあると思いますので、住民票や戸籍謄本などを準備してもらうと良いでしょう。
尚、婚姻により役員の氏名変更をする際は、婚姻前の氏も登記できるようになりました。婚姻前の氏名も登記したい場合は、戸籍謄本(戸籍事項証明書)など、氏の変更が確認できる書類が必要になります。
氏の変更手続きの流れ《理事会設置法人の場合》
- 代表理事へ氏名を変更したことを通知
- 法務局へ役員変更登記申請
必要書類《理事会設置法人の場合》
- 役員変更登記申請書
- 戸籍謄本(婚姻前の氏名を登記する場合)
- 登記すべき事項
*参考ページ:理事が死亡した場合の手続き
代表理事が変わった場合
代表理事に変更があった場合は、変更があった日から2週間以内に法務局へ役員変更の登記手続きを行います。
代表理事の変更には、代表理事の地位のみ辞任する場合と代表理事及び理事も辞任する場合があります。
どちらにしても辞任する代表理事の他に代表権のある理事がいない場合は、理事の中から新しい代表理事を選定しなければなりません。
代表理事の選定方法は、理事会設置法人であれば理事会の決議で行い、理事会を置いていない法人であれば定款の定めに従いますが、多くの法人では理事の互選により代表理事を選定すると定められていると思います。
新しい代表理事が決まったら、現在の代表理事の辞任と同時に新しい代表理事の就任の登記手続きを行います。
表理事変更手続きの流れ《理事会設置法人の場合》
- 理事会の開催:代表理事選定決議
- 代表理事が辞任届を提出
- 法務局へ役員変更登記申請
必要書類《理事会設置法人の場合》
- 役員変更登記申請書
- 理事会議事録
- 代表理事の辞任届
- 新しい代表理事の就任承諾書
- 新しい代表理事の印鑑証明書
- 登記すべき事項
*参考ページ:代表理事の変更手続き
代表理事の住所が変わった(転居した)場合
代表理事は氏名の他にも自宅の住所も登記されていますので、自宅を転居した場合は、低居した日から2週間以内に法務局へ登記手続きを行います。
代表理事の住所変更の手続きはよく忘れられがちで、転居してから何年も経過していたということもよくあります。しかしながら、代表理事の住所は登記事項ですので、手続きを行わずにいると、過料を請求される可能性があります。
放置していた期間が長ければ長いほど、過料の可能性も高くなりますので、十分注意してください。
代表理事の住所変更手続きには、住民票など書類を添付する必要はありませんが、変更後の住所は住民票などに記載されている通りに登記する必要がありますので注意してください。
表理事変更手続きの流れ《理事会設置法人の場合》
- 代表理事が自宅を変更(転居)
- 法務局へ役員変更登記申請
必要書類《理事会設置法人の場合》
- 役員変更登記申請書
- 登記すべき事項
役員変更と登記懈怠
登記懈怠が多くあるのは「役員変更登記」です。
事業目的を変更したり、事務所を移転したりした場合は、その都度変更しなければならないという認識がありますが、役員変更登記は忘れられていることが多くあります。
登記事項に変更が生じた場合は、2週間以内に変更登記を申請しなければならないと定められています。2週間を経過した場合でも登記は受理されますが、2週間を経過した後に登記を行うと、過料を請求される可能性があります。
過料とは、金銭を徴収する制裁の一つで罰金とは異なります。このため「制裁金」とも呼ばれています。
過料の額は、100万円以下の範囲で裁判所が決めます。どれぐらい登記が遅れたら過料が請求されるかの基準がありませんので、「半年登記が遅れたのに過料がこなかった」「1年遅れて登記をしたら過料がきた」など、様々なケースがあります。
この過料の通知は、代表理事個人へ送られてきますので、法人の経費として処理できません。代表理事が個人で過料を負担することになります。
過料の額は、実際通知書が来るまでわかりませんが、数万円から数十万円程度になります。
特に役員の任期が満了したにも関わらず、何年も登記を行わず放置していれば、休眠法人(最後の登記から5年を経過している一般社団法人)として、解散させられてしまいます。もちろん過料も請求されますので、実際に数十万円課された法人もあります。
もし何年も登記を行った記憶がないというのであれば、一度登記簿謄本を確認してみてください。
登記にかかる手間や費用がかかるため、つい手続きを怠りがちですが、一般社団法人を作ったからには、きちんと必要な登記の手続きを行うようにしましょう。
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